• 2025-01-03

不動産の共有名義で売却できないときの対処法とは?相続・トラブル別に解説

「不動産を共有名義で所有しているが、売却ができずに困っている」。
私が相続や後見制度の相談員を務めていた頃、このようなご相談を数え切れないほど耳にしてきました。たとえば、亡くなった親の名義が整理されないまま相続人が増えてしまったり、離婚後も元配偶者と共有状態が続いているなど、背景はさまざま。しかし、いずれにしても共有者全員が合意しなければ売却できないという問題に突き当たります。

本記事では、そもそも「なぜ共有名義だと売却しづらいのか」を法律の仕組みから解説し、話し合いでの解決が難しい場合に使える手段を紹介します。相続や離婚など状況別の注意点や、専門家を上手に活用するためのポイントもまとめました。ぜひ最後までお読みいただき、売却までの道筋を明確にしていただければと思います。

共有名義の不動産が売却できない理由とは?

共有名義の不動産を売却しようとすると、たった一人が「売りたい」と考えていても行動を起こせないケースが少なくありません。ここでは、そもそもなぜ「共有名義だと売却が難しい」と言われるのか、その理由を法律の仕組みと具体的なトラブル事例から見ていきましょう。

同意が必要な理由と法律上の仕組み

不動産を「共有名義」で所有している場合、売却をするには共有者全員の同意が必要です。これは民法の規定によるもので、共有物の処分は共有者全員で決定することが原則となっているからです。

  • なぜ同意が必要なのか?
    不動産という大きな資産を一部の共有者が勝手に処分すると、他の共有者の権利を侵害することになります。法律では、そのような不利益を防ぐために厳格な手続きを求めているのです。
  • 共有持分の大小にかかわらず全員の同意が不可欠
    たとえ共有持分の比率が1%でも、法的には「持分をもつ共有者」である限り、処分に対する同意が必要です。そのため、たった一人の反対があるだけで売却できない状態に陥りがちです。

よくある売却トラブルの事例

共有名義の売却において、典型的に起きるトラブルとしては以下のようなケースが挙げられます。

  1. 共有者が行方不明
    遠方へ転居したまま消息不明となり、連絡が取れず同意が得られない。
  2. 共有者が認知症
    高齢の親の名義が残っており、意思表示ができない。成年後見制度を利用しないと手続きを進められない。
  3. 共有者が売却に反対
    「先祖代々の土地だから手放したくない」と、持分の大小にかかわらず反対に回る者がいる。

このように、たとえ相続や離婚などで名義が別れただけであっても、法律上の規定により売却がスムーズに進まないケースが多いのです。

売却できない場合の具体的な対処法

共有名義の不動産を売りたくても、なかなか合意形成できなかったり、共有者が見つからなかったりすると、そのまま負担だけが増えてしまいます。しかし、だからといって手をこまねいていては事態が悪化するばかり。ここでは、具体的にどのような方法で状況を打開できるのかを順を追ってご説明します。

共有者との話し合いを円滑に進める方法

最も基本かつ重要なのが、共有者同士での話し合いです。
「そんなの最初からやっている」という声が聞こえてきそうですが、実務上よくあるのは「直接会うと感情が先に立ってしまう」「言い出しづらくて話を後回しにしている」といった状況です。そこで大事なのは、冷静に現状を整理することと、第三者の仲介を活用すること。

  • 現状の費用負担やリスクを客観的に把握する
    固定資産税の負担や空き家がもたらすリスクなど、共有名義を続けるデメリットを具体的に示すと、相手も「売却を検討したほうが良いかもしれない」と思いやすくなります。
  • 第三者の仲介を検討する
    家族関係が悪化している場合は、弁護士・司法書士・不動産会社といった専門家や、公的機関の無料相談などを利用して調整してもらうとよいでしょう。

持分の売却・買取という選択肢

どうしても共有者全員が合意しない場合は、自分の持分だけを売却するという方法もあります。法律上は認められており、共有持分の売買という形になります。

  • 他の共有者に買い取ってもらう
    共有者の一人が「いずれは単独名義で不動産を保有したい」という意向を持つなら、自分の持分を他の共有者に売却してしまう手があります。
  • 専門の買取業者に売る
    一般の不動産会社は共有持分のみの売買を敬遠しがちですが、専門に取り扱う業者が存在します。ただし、全体を売却するより価格は安くなる傾向があります。

裁判所を利用した共有物分割請求とは?

話し合いで解決できず、持分売却も難しい場合の最終手段が**「共有物分割請求」**です。これは裁判所を通して不動産を分割(多くの場合は競売)し、代金を分配する仕組みです。

  • 調停手続き
    いきなり訴訟を起こすより、まずは調停手続きで第三者(調停委員)を交え、解決への糸口を探ることができます。
  • 訴訟と競売
    調停が不成立の場合には訴訟へ移行し、最終的に競売となることがあります。競売は売却価格が通常よりも低くなる傾向があるため、金銭的にはデメリットも大きい点を考慮する必要があります。

状況別の対応策(相続・離婚・行方不明など)

共有名義で売却が難航する背景として、相続や離婚などの家族事情が深く関わっているケースが多いものです。実際には「相続人が増えた」「配偶者と意見が合わない」「共有者が認知症になった」といった問題が複合的に絡むこともあります。ここでは、代表的なケースごとに押さえておきたいポイントを解説します。

相続による共有名義:複数相続人との調整方法

親の不動産を相続した際に相続人が複数いて、名義が共有化してしまう典型的な例です。人数が多いほど話し合いがまとまらず、売却が進まなくなる傾向があります。

  • 代表者を立てる
    全員で一度に話すと混乱する場合は、家族の中で話し合いの進行役を決めて、その人が全員の意見をまとめる形をとるとスムーズです。
  • 遺産分割協議書の作成
    相続人全員が納得すれば、不動産売却の方針や配分方法を遺産分割協議書に落とし込めます。最初にこの合意がとれていれば、後の手続きがぐっとラクになります。

離婚による共有名義:財産分与をどう進めるか

夫婦で購入したマイホームなどを離婚後も共有している場合、「住み続けるのか売却するのか」「財産分与はどうするのか」でトラブル化しやすいです。

  • 住宅ローンが残っている場合
    ローン名義が一方に集中していると、持分の売買や名義変更の前に金融機関の了承が必要になることもあります。
  • 合意できないとき
    家庭裁判所の調停を利用し、財産分与の一環として不動産の処分を含めた話し合いをする方法があります。感情面の対立が強い場合は、第三者を介入させることで解決しやすくなります。

共有者が認知症・死亡・行方不明の場合

認知症になった方が共有者になっている、共有者が死亡して相続人に権利が移っている、あるいは共有者そのものが行方不明というケースも珍しくありません。意思表示の問題や相続人調査が絡むため、手続きがさらに複雑化します。

  • 認知症の場合:成年後見制度
    意思表示が難しい人の財産管理を代行する「成年後見人」を家庭裁判所に選任してもらい、売却手続きの判断をしてもらう必要があります。
  • 死亡した場合:相続手続きが必須
    共有者が亡くなっていれば、その持分を相続した人が誰なのかをはっきりさせる必要があります。
  • 行方不明の場合:不在者財産管理人や失踪宣告
    連絡が一切取れない共有者がいる場合は、家庭裁判所に申し立てて「不在者財産管理人」を選任してもらうなどの法的手段を利用します。長期不在の場合は失踪宣告も検討するケースがあります。

専門家に相談すべきタイミングと選び方

共有名義の不動産売却には、法的な知識や調整能力が欠かせません。ところが「どの専門家に、いつ相談すればいいのかわからない」という声も多いのが実情です。ここでは、弁護士・司法書士・不動産業者など、それぞれがどの段階で役立つのかを簡単にご紹介しつつ、相談コストの目安をお伝えします。

弁護士・司法書士・不動産業者の役割

  • 弁護士
    法律トラブル(訴訟や調停、共有物分割請求など)に対応可能。共有者との折衝が難航したら、早めに相談するとスムーズに解決策を探れます。
  • 司法書士
    登記手続きや書類作成の専門家。相続登記や名義変更などが必要なときに頼れる存在ですが、訴訟代理は弁護士ほど広範には行えません。
  • 不動産業者
    売買や買取を担います。共有持分の売却に特化した業者も存在するので、合意形成が難しい場合に活路が見いだせるケースもあります。

無料相談の活用と費用の目安

  • 無料相談の利用
    各自治体や弁護士会が主催する無料法律相談、司法書士会による相談窓口などを活用して、まずは概要を把握することも有効です。
  • 費用の目安
    弁護士への相談料は30分5,000円前後が一般的。調停や訴訟になれば着手金・報酬金がかかり、内容によって数十万円以上になることがあります。司法書士や不動産業者も、登記費用や仲介手数料などが必要になるので、事前に見積もりをとっておくと安心です。

FAQ

共有名義の不動産売却にまつわる疑問や不安は尽きないもの。よくいただく質問と、その簡単な答えをまとめました。状況によっては異なる手続きや追加の対応が必要になることもあるため、最終的には専門家に個別相談するのが望ましいです。

  1. 不動産の共有名義を解除するにはどうすればいい?
    → 共有者間で話し合って持分売買をする、あるいは売却して代金を分配するのが一般的です。合意が得られない場合は、共有物分割請求に至る可能性もあります。
  2. 自分の持分だけ売ることは可能?
    → 法律上は認められていますが、共有持分のみを買い取る業者や個人は限られます。価格面や条件が通常の売却より厳しくなる傾向があります。
  3. 弁護士に相談するのはいつがいい?
    → 共有者との協議が難航してきた時点で、できるだけ早く相談するのがおすすめです。早期に介入してもらうことで、感情的なしこりを最小限に抑え、解決への道筋を具体化できます。

まとめ

不動産を共有名義で所有していると、「売りたくても全員の同意が得られずに動けない」という事態が生じやすくなります。相続や離婚など、背景が複雑になればなるほど話し合いは難航し、結果として空き家問題や固定資産税の負担が積み重なっていくのです。

しかし、正しい知識を得て粘り強く進めれば、解決策は必ず存在します。話し合いを円滑に進める工夫や、持分売却・共有物分割請求などの法的手段を適切に選択すれば、共有名義の売却は実現可能です。認知症や行方不明、死亡など、当事者が意思表示できない場合にも、成年後見制度や不在者財産管理人の選任などの方法があります。

まずは専門家の無料相談などを通じて現状を整理し、具体的なアクションプランを立ててみましょう。行動を起こすことで、困難に思えた共有名義の売却にも一歩ずつ近づいていけるはずです。